『続みんなの綴方教室』 [書籍]
みんなの綴方教室〈続〉―実践生活綴方ノート3 (1980年)
- 作者: 国分 一太郎
- 出版社/メーカー: 新評論
- 発売日: 1980/08
- メディア: -
『みんなの綴方教室』(新評論)の続編です。その紹介で取り上げた「再生的想像(表象)」と「創造的・構成的な想像、思考」を踏まえて、国分さんは「この本のはじめに—より複雑なことを書かせるための指導」において、前書と本書の関係を次のように説明しています。
この書は、『みんなの綴方教室』の続編として書いたもので、ここから、いよいよ新しいページにはいる。第三部にはいるのだといってもよい。
ここで、ちょっとふりかえってみる。第三部といったのにあわせて、それでは、『みんなの綴方教室』の第一部、第二部では、なにを勉強したのだったろうか? それをもう一度思い起こしてみよう。すると、それは、つぎのようになる。
○第一部— ここでは、やや長くつづくある期間、ある時、またはある日ある所で、経験した一回かぎりのことを、過去形を主にして、いきいきと再現させていく指導の方法の勉強をしてきたのであった。(四一ページから一五五ページまで)
○第二部— ここでは、長いあいだ、やや長い間にわたって経験していること、いまもそれをしつづけていることを、まとめて説明風に書かせる方法の指導について勉強をしてきたのであった。(一五六ページから二七〇ページまで)
○第三部— そして、これからのべていくことは、第一部、第二部で勉強してきたものを生かして、より複雑なことを、多様な書きかたでつづっていく文章の表現方法の指導を身につけていくようにすることについてである。
つまり、前書の第一部では「再生的想像(表象)」を促すような文章、第二部では「創造的・構成的な想像、思考」を促すような文章を取り上げてきました。そして、本書の第三部では「より複雑なことを、多様な書きかたでつづっていく文章」を取り上げるわけです。その具体例な書き方については、「六 概括的な文章の表現指導」の冒頭でコンパクトにまとめられています。それぞれの書き方を、抜き出して引用してみましょう。
一回限りの具体的経験の再現
ある時またはある日、あるところで経験したことを、あった順序によく思いだして書くのがこれであった。
なんべんか経験したことをまとめて説明する
これは、長いあいだ、やや長いあいだにわたって見聞したり、考えたり感じたりしたことを、頭のなかで、よくまとめて、ひとによくわかるように説明していくという文章であった。
途中に説明部分を入れる
これは一回限りの体験を再現していく文章のあいだあいだに必要な説明をキチンといれる書きかたのことであった。
説明のあいだに実例をいれる
これは証拠をハッキリさせるために、説明文のあいだに実例をはめこみ、「……しました」「……した」という形の文章をうまくいれていくことであった。
継続態の表現をいれる
これは経験を再現していく文章のあいだあいだに、「……している」「……する」という書きかたをはめこんで、ことがらが、いま目の前におこっているように書く書きかたのことであった。読むひとの前に、ものごとのうごきやすがたがハッキリうかんでくるようにする書きかたのくふうであった。
つまり、第一部や第二部の書き方を組み合わせるのが、本書の第三部の書き方です。そして、これらの書き方を駆使した「評論風・論文風の文章」が「総合的概括形表現」というわけです。
ところで、これらの文章の書き方について、国分さんは「自由研究としての題材」の項において、次の整理を試みています。
(a)生活経験、その具体的事実を記録していく表現行動。
(1)一回かぎりのことを再現していく記録活動。
(2)たびかさなる経験をまとめて説明していく表現活動。
(b)書き手主体が能動的・積極的に研究をして、その成果をまとめていく表現活動。
このうち、(b)のような活動をさせるためには、「おしつけられてやるのではなく、自分で調査し研究して書く」ことができるように、「自由研究」や「総合学習」として書かせた方がよいとしています。
このような国分さんの整理を手がかりに考えると、(a)は「記録」を中心とした〈書くことの教育〉と言えそうです。その指導は国語科において行われるのでしょう。(b)は「研究」を中心とした〈書くことにょる教育〉と言えそうです。その指導は総合において行われるのでしょう。
もちろん、この二つを明確に分けるわけではありません。国語科で「研究」的な活動をすることもあれば、総合で「記録」的な活動をすることもあるでしょう。そうだとしても、このような役割分担の考え方が妥当かどうか、議論の分かれるところかもしれません。〈書くことの教育〉と〈書くことにょる教育〉の問題については、慎重に判断したいところです。
最後に、国分さんの考えていた文章の書き方について整理した部分を「七 あらゆる文章を自由自在に」から引用しておきます。この5種類の文章を手がかりに、〈書くことの教育〉と〈書くことにょる教育〉の問題について、じっくりと考えていきたいものです。
☆遠い過去、中くらいな過去、近い過去に見聞し、経験し、行動したこと、そのなかで考え感じたことを、時間の推移と時間の進行の順序で「……しました」「……した」「……したのだった」と再現していく文章の書きかた(Ⅰ)
これは別の方からいえば一回限りの経験を再現する文章の書きかたであった。そしてこの書きかたのときには、「よく思いだす」ということが、なによりも大事である。またこの文章のなかには、一日のうちのごく短い時間のあいだにあったこと、一日中にまたがってあったことも書くということになる。内容によっては、二年三年にまたがることであってもよい。とにかく一回限りの生活経験を書くのである。
☆長いあいだ、やや長い間にわたって、くりかえし見聞し経験し行為していること、そこで考え感じていること、それがいまもつづいていることを、頭のなかでまとめて、よく説明するように書く書きかた(Ⅱ)
この書きかたのときには「……です」「……であります」「……である」「……なのだ」という、現在未来形の書きかたをしなければならない。書くときには、頭のなかで書くことがらをきちんときめ、それを順序よく組みたて、よくわかるように説明しなければならない。長いあいだ、やや長いあいだにわたることを書くのだから、一回限りのことをよく思いだして書くのとはちがう。いつもあること、いまもつづいていること、心のなかで感じ考えつづけていることを、まとめて書くようにしなければならない。
☆いままでいった(Ⅰ)や(Ⅱ)の書きかたのあいだに、挿入部があるような文章の書きかた(Ⅲ)
これには、ふたつの別があるのだった。
(イ)は、(Ⅰ)の文章のあいだに、理由や根拠を示すために、(Ⅱ)で練習したような、いつものことを書く説明文をはめこむばあい。
(ロ)は(Ⅱ)の文章のあいだあいだに、実例や証拠をいれるために、「このあいだも」とか「二週間ばかり前も」とか「ゆうべも」という書きかたの文章をはめこむのになれることだった。
☆さっきいった(Ⅰ)の文章のあいだに、いまそのことが進行しているように、切迫感があるように、臨場感をかんじさせるように、継続態のかたちをはめこむ書きかた(Ⅳ)
だから、ここの部分は「……している」とか「風がふく。すすきのほがゆれる。その穂が白々と光る」といった、小説などで見られる表現がもちいられる。
☆知識として獲得したことや、自分がつくりだした意見をまとめて、しかも一般化抽象化して、学者や評論家が書くような概括的表現にまとめるときの書きかた(Ⅴ)
この書きかたをするのには、たくさんの事実を、経験したり調査したりして知っているばかりでなく、それを本に書いてあることや、他人の意見などとくらべ、やがてこれを自分の創意・まとめ・意見として、「……である」「なのである」(歴史的記述のときは「過去形」)と一般化して書かなければならないのだった。その文章の一行一行に、読むひとが、具体的な事実をはめこんでくれて、「これは本当だ」「まったくだ」と思ってくれるように書かなければならないのだった。
この本のはじめに—より複雑なことを書かせるための指導
新しい指導分野
その指導内容の予告
なぜ必要か
一 「必要な説明部分」を挿入して書く文章の指導
1 その意味
どんなところにどんな形で
子どものばあいも
指導の方法の三つ
2 その実例
実作にそうて(1)
実作にそうて(2)
実作にそうて(3)
学生の場合
おとなの作品にそうて
3 そのつど、そのつど入れる説明
そのつど、そのつど入れる説明
このような場合の鑑賞のさせかた
もうひとつの説明
4 ひとりひとりの子に「説明」を入れさせる指導
もしもこんな作品がでたら
その前に指導しておきたいこと
「たとえば」といえる例を貯蔵しておく
さて□□君との話しあい
ひきだしかたと入れさせ方
二 「実例」をいれる表現の指導
1 その意味
総合的説明形表現のある部分に
三年生の文例
五年生の文例
第一段階の指導の結果が生かされるか
中学生の文例
挿入のしかたと、元へのもどしかた
おとなの文章のばあい
2 指導の方法について
抽象的より具体的に
鑑賞による指導法(1)
鑑賞による指導法(2)
意識して指導したあとの鑑賞
三 叙述にきびしさを求める指導
おおめに見てやれるとき
おおめに見てやれないとき
どんな指導方法か
四 継続態表現をさしはさませる指導
1 その意味
これはどんな表現の技術か
子どものばあい
観察記録のばあい
萌芽的なかたち
意識的なものの初歩
小学五、六年生の実例
ていねい体文章のばあいも
中学生の実例
2 具体的な指導方法
一斉指導はできない
鑑賞をさせ、いつかあらわれるのをまつ
おとなの場合でも
五 「会話」「方言の会話」を入れさせる指導
1 その意味
どう位置づけられてきたか
別な考えかたもある
会話を書かせる新しい意味
2 その具体的な指導
方言での話・会話をいれるとき
地の文と会話のちがい
大都会方言も
考え方や感じ方のあらわれる方言を
おとなの場合
六 概括的な文章の表現指導
1 いままでの復習とその意味
一回限りの具体的経験の再現
なんべんか経験したことをまとめて説明する
途中に説明部分を入れる
説明のあいだに実例をいれる
継続態の表現をいれる
これらがなぜ大切か
2 その実例
おとなの文章を見てみよう
自然のことを書いても
ある考えを書いた文章
歴史的な書きかたの文章も
ひとは話しことばでも、これを
3 予備的な指導
子どものための標語として
心におもったことを書いた場合
老人やおとなの話・会話の部分で
板書をするときも
公理や規定を視写させる
百科事典などの短い項目
文筆活動法を大事にする
4 その指導の手順
いつごろから書かせるか
前提となるひとまとまりの文章
参考文例の比較研究から
5 なにを、どんなときに
なにかを調べたり知ったり
ちいさいせまい範囲のことから
自由研究としての題材
総合学習の成果を
6 その構成の指導
たんざく形の紙にことがらを
一枚のひろい紙面のはじめとなかとおわりに
この種の文章の普通の構成
こころみに、さっきの構成で
各部分にいれることがら
読ませることでも
7 叙述・記述の指導
まずおとなの文章から
歴史的な記述のとき
子どもの文章のとき
七 あらゆる文章を自由自在に
1 いままでの力を発揮させて
ここで復習をしてみれば
これからの勉強
そこでまず見本を
この文章の書きかたの特徴
2 文章のなかの「時間」の記述
時間をあらわすばあい
文のテンスと文章のテンス
3 表現上のくふう(表現性)の指導
事実と表現と
表現性への自覚
もっと欲をいえば
あとがき
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