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『中1ギャップ』 [書籍]


中1ギャップ―中学校生活になじむ指導のポイント

中1ギャップ―中学校生活になじむ指導のポイント

  • 作者: 石川 晋
  • 出版社/メーカー: 学事出版
  • 発売日: 2009/04/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「小1プロブレム」とともに「中1ギャップ」という言葉が広がっています。この本の共著者の一人、石川晋さんは次のように状況を説明しています。

中学校1年生が5月の連休明けあたりから、登校を渋り始める。登校してきても、疲労を訴えたり、学習に集中できなかったりする。さらには、学習についていけない、友達との関係をうまく結べず孤立する、部活動になじめない……。

こうした現状に対して「6・3制見直し」などの取り組みも行われていますが、石川晋さんは「カリキュラムの改善など待っていられない」と言います。そして、「小6や中1の担任や学年団で現実的に準備したり対処したりするためのいくつかの大切なこと」として、次の6つのポイントを挙げています。

(1)小学校6年生段階で、平素の指導の中で、中学校入学を意識した指導や支援、働きかけをどう仕組むか。
(2)中学校1年生段階で、入学してきた生徒にどのような配慮・支援を仕組むか。
(3)小学校6年生の指導に関わる教師と中学校1年生の指導に関わる教師との間で連携を図ることはないか。
(4)小学校中学校の教師がそれぞれ、双方の学習方法・内容や行事方法・内容についての知識を持っているか。
(5)引き継ぎなどの際に、特別な支援が必要な子どもの問題も含めて、何を重点的に伝え合う必要があるか。
(6)特別な支援の必要な生徒への基本的な対応の仕方や関係機関との連携の方法を知っていて、それを周囲の教師と共有しているか。

これらのポイントにしたがって本書の以下の章で具体的な提案がされています。

たとえば、ポイント(4)です。9章「小中学校月別行事対照表」は小学校教師の高橋正一さんと中学校教師の石川晋さんの共同執筆です。各月1ページに小中それぞれの行事のポイントが並記されているので、非常に参考になります。まず、この表を見てから、本文の該当箇所を読むのも有効でしょう。

あるいは、ポイント(6)です。8章「特別支援教育に必要な情報にアクセスする」では特別支援学校教師の石川拓さんが、さまざまな情報を整理しています。中でも、特別支援教育の「サポーターを活用する際の6つのポイント」には考えさせられます。

(1)専門機関や専門家に「解決してもらう」のではなく、有用な情報を得るツールとして活用する
(2)診断を期待するのではなく、ある子ども、ある集団の中にどのような特別な困難があるのかを「共に」見つける
(3)専門家といえどもある切り取った場面や情報だけで総合的な判断をすることは困難だという前提で協力を依頼する
(4)日々の実像・実態の情報を担任が整理して具体的に伝える
(5)得られた評価や指導のヒントから、使えるものを選んだり変更を加えて実践するのは、あくまでも担任である
(6)継続して支援を得られるように組織として正式に契約する

こうして見ると、「中1ギャップ」の克服には、小学校教師と中学校教師はもちろん、特別支援教育のサポーターも含めた相互協力が不可欠だと再認識させられます。「あとがき」にもある通り、「みんなで協力しながら取り組む文化」が求められているのです。このようなメッセージが強く伝わってくるのは、この本が「石川晋、拓の兄弟と、その旧知の仲間である高橋の3名」の共著であることも関係しているでしょう。3名による20年来の信頼関係が随所にうかがえる1冊です

まえがき 「中1ギャップ」の現場で苦しむ先生方のために
1章◎「中1ギャップ」の問題を考える
 1 中1の状況が厳しくなっている
 2 「中1ギャップ」が全国に広がっている
 3 カリキュラムの改善など待っていられない
 4 「中1ギャップ」に対処するための基本的な考え方
 5 「小6でできること」、「中1でできること」
 6 小中双方で「見通し」を持ちたい
 7 中学校に来てよかったと言ってもらいたい
2章◎中学校生活になじむ〜小6でできること〜
 1 開かれた学級づくりが大切
 2 「学級王国」の問題点を探る
 3 進学後のつまずきから考えよう
 4 中学校の授業を見て思ったこと
 5 行事が大変である
 6 小6で準備したい7つのこと
3章◎中1担任へ望むこと・10のポイント
 1 最高学年としての育ちを生かす
 2 人間関係の構築に気を配る
 3 学習面から考える
 4 生活面から考える
 5 中1担任へ望むこと・10のポイント
4章◎中学校生活になじむ〜中1で行いたいこと〜
 1 学級を壊したくないという力が働きすぎる
 2 引き継ぎを丁寧に行う
 3 引き継ぎを生かす
 4 行事を乗り切る・入学式
 5 行事を乗り切る・体育祭
 6 テストに対応する
 7 話し合い活動を取り入れた授業を構築する
 8 教室の中に居場所をつくる
 9 同僚に相談し、チームで対応する
5章◎小6担任へ望むこと・10のポイント
 1 不安を取り除くためにできることを考えたい
 2 一年の流れや行事の中身をイメージさせたい
 3 学習面から考える
 4 生活面から考える
 5 小6担任へ望むこと・10のポイント
6章◎中学校生活になじむ〜小6・中1で連携したいこと〜
 1 現場でできることを大切にする
 2 小6・中1で連携したい8つのポイント
 3 小中学校の教師同士で連携をすることが重要
7章◎特別な支援が必要な子どものために
 1 特別な支援が必要な子どもをめぐる状況
 2 コミュニケーションが成り立っているかを見直す
 3 コミュニケーションの困難さを改善する
 4 子どもの成功体験を生むための情報を共有しよう
8章◎特別支援教育に必要な情報にアクセスする
 1 教師の特別な学びが必要だ
 2 サポーターをつくる「特別支援学校や専門機関に相談しよう」
 3 サポーターを活用する際の6つのポイント
 4 特別支援学校や専門機関等の活用例
 5 特別支援教育に役立つ情報源
9章◎小中学校月別行事対照表
 1 小中学校月別行事対照表を活用してほしい
 4月 小6(入学式・1年生を迎える会)/中1(入学式・部活動紹介・学級役員決め・部活動入部)
 5月 小6(ゴールデンウイーク・家庭訪問)/中1(ゴールデンウイーク・家庭訪問)
 6月 小6(修学旅行)/中1(最初の定期テスト・野外活動)
 7・8月 小6(夏休み)/中1(中体連夏季大会・地域体験学習・夏休み)
 9月 小6(児童会役員決め・運動会)/中1(体育祭・前期通知表配布)
 10月 小6(学習発表会・音楽会)/中1(学級役員決め・文化祭・合唱コンクール・2度目の定期テスト)
 11月 小6(授業公開)/中1(授業公開)
 12・1月 小6(学級レクリエーション・冬休み)/中1(教育相談・冬休み)
 2月 小6(交流活動〈一日体験入学〉・6年生を送る会)/中1(学年末テスト・球技大会)
 3月 小6(卒業式)/中1(卒業式・学級分散会・通知表配布)
あとがき みんなで協力しながら取り組む文化を
筆者紹介
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コメント 2

石川晋

 石川です。
 中1ギャップの紹介感謝です。
 ペア・グループ本の紹介もしてくださって・・・。感謝感謝です。

 どちらも地味な本です。
 また、まだうまく書けていないところがたくさんある本です。

 ただ、執筆者みんなが思っている小さな自負は、類書がない、ということです。同じジャンルの本はあっても、丁寧に読んでいただければわかるとおり、それらの本とは違うアプローチ、異なる考え方で書かれています。
 たくさんの人に手にとって読んでもらいたいと願っています。

 「拓」の字が、間違っています。ぜひ修正してあげてください。

by 石川晋 (2009-09-10 23:23) 

佐内信之

石川さん、こんにちは。佐内です。

本当は夏集会前に紹介したかったのですが、そこまでの余力がありませんでした。1ヶ月以上の遅れを取り戻そうとコツコツと本を読んでは書く毎日です。

『中1ギャップ』おもしろかったです。私も何度か小学6年生を担任していますが、中学校との連携は、なかなか思うようにできませんでした。今後のヒントになりそうです。春集会のタイミングで、「小1プロブレム」「中1ギャップ」などを取り上げるのも効果的かなと思いました。

「類書がない」も、よく分かります。この本でも『中1ギャップの克服プログラム』との違いが明示されていましたね。先行文献を踏まえるのは研究の基本のはずですが、必ずしも、そうなっていない本や原稿が目につきます。せめて、自分の関わる仕事では、そんなことが無いようにと心がけています。それでも、意に反して不完全な情報を発信してしまう場合もあるのですが……。

「拓」さんの名前、失礼しました。さっそく修正しました。いろんな間違いがあると思いますので、また教えてください。今後とも、よろしくお願いします。
by 佐内信之 (2009-09-12 07:24) 

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