『ことばの学び手を育てる国語単元学習の新展開Ⅰ理論編』 [書籍]
大内善一さんは『作文授業づくりの到達点と課題』(東京書籍)の「まえがき」において、「作文授業づくりに関してのケース・スタディ」の作業を行う必要性を述べています。『思考を鍛える作文授業づくり』(明治図書)でも行われた検討作業を踏まえて、少し時代をさかのぼり、昭和四十年代以降の実践を取り上げています。
さて、大内さんは『作文授業づくりの到達点と課題』「第Ⅷ章 単元学習的作文授業づくり」において「国語単元学習」を取り上げています。国語単元学習では「〈書く活動〉をも含めた各種の言語活動が総合的に学習されていく」ものです。そこで、「〈書く活動〉がどのように取り入れられているかを考察することによって、作文授業づくりの成果の広がりとその内実とを明らかにしていくこと」を目的としています。考察対象は、「『国語単元学習』の実践研究を標榜している日本国語教育学会が創立二十周年を記念して刊行した」次の文献です。
日本国語教育学会編『ことばの学び手を育てる国語単元学習の新展開』Ⅰ巻〜Ⅴ巻(理論編・小学校低学年編・同中学年編・同高学年編・中学校編)一九九二年八月 東洋館出版社
これらに収録されている小学校の実践事例29編に対して、次の観点で検討されています。
A 〈書く活動〉の種類とその適否
「国語単元学習」の中に取り入れられている〈書く活動〉の種類は実に多様である。「メモ」や「視写」から「絵本づくり」「物語づくり」といったかなり高度な表現活動まである。そうした活動が対象児童の発達段階を十分に考慮して取り入れられているかどうか。また、表現の機能を自覚できないような文章(作文ジャンル)を書かされていたのでは、子供は思考を働かしにくい。そこで、取り入れられている〈書く活動〉の種類が適切か否かを〈A〉〈B〉〈C〉の三段階からランクづけしてみた。
B 〈書く活動〉を指導する手立て
「国語単元学習」では、「新聞づくり」「歳時記づくり」といった特殊な〈書く活動〉が取り入れられている。これらの〈書く活動〉を取り入れる際には、その特殊性や難易度を十分に考慮してそれ相応の指導の手立てを講じる必要がある。実際には、具体的にどのような手立てが講じられているかを洗い出してみた。
C 単元全体において〈書く活動〉が占める比重
「国語単元学習」の中では、さまざまな言語活動が取り入れられている。ほとんど〈書く活動〉を中心にして構成されている単元もある。しかし、中には、話し言葉中心の活動で構成されているもある。そこで、単元全体で〈書く活動〉が占める比重を〈大〉〈中〉〈小〉の三段階からランクづけしてみた。
その後、詳細な分析結果が示されているのですが、結論としては「〈書く活動〉という一言語活動の面から見ていっただけでも決して満足できる状況とは言えない」という厳しい評価がされています。その課題は以下に列挙されていますが、「『国語単元学習』は、一度その抽象的であいまいな看板を取り外して、平素のありふれた実践の中から子供が本当に満足するような授業を創り出すことに専心していくべきである」という指摘には、いろいろと考えされられます。
(1)単元学習的作文授業づくりに直接関わることではないが、「国語単元学習」では、もっと単元名に意を用いるべきである。指導者の一方的な思い入れや指導意識を露骨に出した単元名は避けるべきである。
(2)「絵本」「童話」「物語」などの総合的な創作活動を取り入れる場合、子供が、これらの創作活動の基底にある各種の〈書く活動〉が持っている表現機能やその手順・方法などについて、理解し駆使できるように配慮していかなければならない。
(3)(2)のような創作活動を行わせる場合に、圧倒的に多く用いられている手立ては、活動を円滑に行わせるための「手引き」である。この「手引き」づくりの際にも、指導者は、各種の〈書く活動〉が持っている表現機能やその手順・方法について熟知していなければならない。
(4)どのような〈書く活動〉を取り入れるかは、単元構成に左右される問題であるが、子供の発達段階に即した無理のない、しかも子供の表現意欲をかきたてるようなアイディアに富んだ形態にアレンジして取り入れていきたいものである。
(5)「国語単元学習」は、各種の言語活動や多様なジャンルが複合的に組み合わされたものであるから、〈書く活動〉一つを取り上げても、その中にさまざまな〈書く活動〉や文章形態(ジャンル)が組み合わされていてもよい。
(6)〈書く活動〉に使用する学習材(素材・題材)の選び方は、指導者の力量にまつしかないが、優れた学習材を発掘するためには、何よりも指導者自身の豊かな言語表現生活が基底になければならないことも再認識しておく必要がある。
(7)読み書き関連の学習をそのまま単元化して〈書く活動〉を取り入れた事例には、読みの学習教材を安易に〈書く活動〉のサンプル教材として使用しようとする傾向が強い。読みの教材が〈書く活動〉のサンプル教材にはレベルが高過ぎることを再認識していくべきである。
(8)各種の〈書く活動〉を指導する手立て(=支援活動)は、〈書く活動〉の難易度に比例してよりきめ細やかに講じられていくべきである。実際には、ほとんど活動の場を設定してやっているだけで、手立てを講じた形跡の感じられない実践がある。今後の重要な課題である。
(9)単元学習的作文授業づくりにおいても、やはり一般の作文授業づくりの場合と同様に、〈書く活動〉について子供がその目的・相手を意識しやすいような状況、すなわちコミュニケーション状況を意図的に設定することが大切になる。その状況が当該単元の性格から自ずと規定されてくることもあろうが、「総合単元学習」のように大がかりなものになると、コミュニケーション状況があいまいになることもある。〈書く活動〉は、労の多い仕事であるから、とりわけその目的・相手を子供が明確に意識できるような配慮が絶えず必要になる。
(10)「帯単元」方式で〈書く活動〉を長期間にわたって取り入れていく場合、ややもすれば活動が単調になりマンネリ化するおそれがある。これを避けるために、学習材(素材・題材)を適宜変えていくことはもちろんのこと、変えていく学習材に合わせて教材にも新しい趣向を取り入れ、指導の手立てにも変化を加えていく必要がある。ワンパターンは、絶対避けられなければならない。
(11)「国語単元学習」一般の授業記録には、単元を構想した動機や趣旨の説明、単元計画の概要などが一般論を交えて長々と説明されている事例が多い。これでは、「国語単元学習」の実体をますます捉えにくいものにしてしまう。記録の中で、必ず記述しなければならない部分は何か、その軽重のかけ方、強調と省略の手法、授業の活動場面を生き生きと活写する表現技術などについても、意を用い習熟に努めていくべきである。子供たちが作成した「学習の記録」の取り上げ方、作成された言語作品などの取り上げ方にも、創意工夫が求められていると言える。どこかで見たような類似した実践も数多くあるが、先行実践を踏まえ、そのことを自覚した実践研究としての授業記録の出現も望みたいところである。
第一章 国語単元学習の理論
一 国語単元学習の思想 倉澤栄吉
1 国語教育論には思想がない
2 言語生活重視の思想
3 学習者解放の思想
4 キーワード
二 国語単元学習の歴史的展開 野地潤家
1 国語単元学習の導入と盛行と批判—昭和二〇年代
2 国語単元学習の創成と成熟—大村はま氏の場合
3 国語単元学習の新生と展開—昭和四〇年代、五〇年代
4 国語単元学習論の展開と位置づけ—先行研究
三 国語の学力と単元学習 大槻和夫
1 未来社会に生きるための国語学力と単元学習
2 学習者の国語学力・国語学習の実態と単元学習
3 国語の学力を育てる単元学習のあり方
4 国語の学力の育つ「場」と単元学習
5 単元学習の精神を生かす指導
四 単元学習の構成 田近洵一
1 単元学習を問うことの意味
2 単元学習への視点
3 単元学習の構想
4 単元学習の種類
5 総合単元学習
五 単元学習と教材 浜本純逸
1 学習要求と学習価値
2 多様な教材
3 教材化の試み
六 学習者と国語単元学習
1 生活の中の国語学習
2 国語単元学習
3 効果的な国語単元学習
七 外国における単元学習の動向1 桑原隆
—ホール・ランゲージ(アメリカ)—
1 はじめに—単元学習とホール・ランゲージ
2 ホールランゲージの構造
3 テーマ単元の実際
八 外国における単元学習の動向2 有沢俊太郎
—トピック学習(イギリス)—
1 トピック学習の実際
2 場面の理論—トピック学習の原理
3 トピック学習の教材—選択と組織
4 読みの教材と指導法
第二章 国語単元学習のための関連諸科学
一 教育学における国語教育論 稲垣忠彦
—教育方法研究からの発言—
1 はじめに
2 単元学習の歴史的系譜と変質
3 トピック学習の実践
4 単元学習の実践的課題
二 言語研究と国語教育 湊吉正
—国語教育学的言語論の成立のために—
1 はじめに
2 言語の種々相をめぐって
3 言語の媒介性をめぐって
4 教材研究をめぐって
三 文学研究と国語教育 安西廸夫
—文学教育の方法—
1 文学の特性
2 文学と読者
3 文学研究と作品を読むこと
4 文学教育の方法
四 心理学と国語教育 今井靖親 福澤周亮
1 国語教育に関する心理学的研究の概観
2 文学の読み・書きに関する研究
3 語彙指導に関する研究
4 文章理解に関する研究
5 作文に関する研究
6 その他の研究
五 情報化社会論と国語教育 中洌正堯
1 「情報化」について
2 情報源と情報受容について
3 情報活用・情報創造について
4 「情報化」における言語について
第三章 国語単元学習の生成、発展、展望
一 対談 国語単元学習の諸問題—実践への指針 大村はま 井上敏夫 森久保安美
二 提言—国語単元学習に望む
1 国語科の授業を改善し、充実させ、創造するために 青木幹勇
2 単元学習についての追憶と反省 石井庄司
3 二つの原理から 浮橋康彦
4 人を作る話しことば指導 大石初太郎
5 轍 大橋富貴子
6 授業改善のストラテジーとして 大平浩哉
7 山形における単元学習
8 「問いつづける」力を育てる単元学習 長谷川孝士
9 国語単元学習の新展開 波多野完治
10 言語生活単元の発展を期待して 滑川道夫
あとがき
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