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『戦後作文教育史研究』 [書籍]


戦後作文教育史研究―昭和35年まで (1984年) (国語教育叢書〈21〉)

戦後作文教育史研究―昭和35年まで (1984年) (国語教育叢書〈21〉)

  • 作者: 大内 善一
  • 出版社/メーカー: 教育出版センター
  • 発売日: 1984/06
  • メディア: -


井上尚美さんが本書の序に「新進の研究者大内善一氏の修士論文を土台にして書かれたもの」という紹介をしています。研究者としての大内善一さんの出発点とも言える著作です。本書のテーマについて、大内さんは「まえがき」で次のように述べています。

 日本近代教育における作文・綴り方教育の生成と発展の歴史の中で作文・綴り方という術語は、機能・方法面と領域面との二重概念のもとに用いられてきた。つまり、綴り方科ないしは国語科作文としての教科領域概念と、書くという言語操作技能を教科の枠外の全教育分野に適用していくという概念とを共に内在させてきたのである。したがって、作文・綴り方教育の性格は、他の諸教科に比べてきわめて複雑であり、従前から数々の問題・課題が投げかけられ、論議されてきたのである。
 そして、この作文・綴り方という術語における二重概念のもたらす問題は、戦後の大幅な教育制度の改革に伴って表面化してきたのであった。それは、具体的には、「表現指導か生活指導か」という争点となって現れた。つまり、国語科作文としての「書くこと」そのものの教育か、あるいは、書き綴ることを一教育方法・手段と考えて、国語科の枠外に広く生活全面の指導を行っていくものかという対立論争として展開されたのである。
 この論争は、広く教科構造論ないし教育内容論に関するきわめて重要な課題を内在させつつ、今日の作文教育の骨格や性格に培ってきたところの数々の問題・課題を胚胎させている。これらを掘り起こし、そこに潜んでいるより本質的な意味を尋ねあてることは、今日わたくしたちが取り組まなければならない幾多の課題を明らかにするはずである。

「表現指導か生活指導か」をめぐって「主に昭和二七年から同三〇年のほぼ四年間を中心として」繰り広げられた「作文・生活綴り方教育論争」については、第Ⅳ章「三 論争の問題史的意義」において、次のように概要が整理されています。

 <国語科作文派=表現指導派>
基本的には、文部省の学習指導要領の線に沿って、カリキュラムの枠内でバランスのとれた国語科作文教育を行うという立場をとる。その強調点は、表現能力の育成を目指して文章表現指導を重点とし、計画的・系統的な指導を行うということである。そして、生活綴り方派に対しては、戦前、生活綴り方でやっていた生活指導・生活教育といった仕事は、新しい教育全体でやるべきで、作文にあまり大きな役割を負わせるのはまちがている、系統的な方法をゆるがせにしては、正確な表現能力をつけることができないなどと批判した。
 <生活綴り方派=生活指導派>
基本的には、文部省の学習指導要領は、文章表現指導のみを中心に考えているため、これを狭く解釈して分節的技術一辺倒の教育となる恐れがあると批判し、さらに、アメリカ流の新教育に正面きって抗議するという立場をとる。そして、戦前の生活綴り方教育が打ち出していた、書き綴ることを通してこれと切り離すことのできない生活指導・生活教育を行うという方法を継承して、国語科の枠外に広く生活を育て、人間を育てる方法としての生活綴り方的教育方法を提唱した。

このような立場の違いがあったものの、論争を通して「表現指導を通しての生活形成・人間形成」という方向で両者が歩み寄った点が、この「論争の意義」であったと総括されています。

戦後だけでなく、戦前においても繰り返されてきた「表現指導か生活指導か」の論争ですが、現代の作文においても「機能・方法面と領域面との二重概念」がある以上、その火種は燻っていると言えそうです。

なお、本書は後に『戦後作文・生活綴り方教育論争』(明治図書)としても刊行されました。

 序
 まえがき
序章 戦後作文教育史研究の概観
第Ⅰ章 敗戦直後の教育動向と作文教育
 一 敗戦直後の教育動向
 二 児童雑誌と綴り方・作文教育
 三 新しい国語教科書の作文教材—教科書作文教材の出現—
第Ⅱ章 戦後作文教育の出発
 一 国語教育の改革と作文教育—昭和二二年版『学習指導要領国語科編(試案)』—
 二 戦後作文教育実践の出発
 三 国語科学習指導要領の改訂—昭和二六年版『学習指導要領国語科編(試案)』—
 四 「作文読本」の刊行とその意義
 五 新教育における作文教育の反省と批判
第Ⅲ章 生活綴り方教育運動の復興
 一 生活綴り方復興をめぐる動向
 二 戦前生活綴り方教育の遺産—『大関松三郎詩集 山芋』—
 三 現実把握の方法に培う綴り方教育—『新しい綴方教室』—
 四 教育方法としての生活綴り方実践の出現—『山びこ学校』—
 五 生活綴り方運動の躍進
第Ⅳ章 作文・生活綴り方教育論争
 一 論争の開始
 二 論争の経過と両派の動向
 三 論争の問題史的意義
第Ⅴ章 作文・生活綴り方教育運動の新しい展開
 一 生活綴り方教育の発展—生活綴り方的教育方法へ—
 二 「作文の会」の動向
 三 「日本作文の会」の動向
第Ⅵ章 系統的・分析的作文指導の研究
 一 作文学習指導の系統化
 二 コンポジション理論の導入
 三 作文指導のための文法指導
第Ⅶ章 戦後作文教育理論の生成と深化
 一 社会的通じあいとしての作文教育—西尾実著『書くことの教育』—
 二 生活教育としての作文教育—吉田瑞穂著『私の作文教育帳』—
 三 国語科単元学習による作文教育—倉沢栄吉著『作文教育の大系』—
 四 表現力・生活力の育成を目指す作文教育—波多野完治・滑川道夫著『作文教育新論』—
 五 望ましい作文教師像の提唱—倉沢栄吉著『作文の教師』—
 六 作文の基礎的能力を育成する指導—倉沢栄吉著『表現指導』—
第Ⅷ章 作文学習指導法の開拓
 一 文章表現過程に即した指導法の開拓
 二 評価・処理の方法と実際
 三 文集の作成法と活用の実際
終章 戦後作文教育の総括—昭和三五年まで
*戦後作文教育史年表
*あとがき
*索引
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